私は恵まれて育ってきた。
間違いなく恵まれた両親から、祖父母から、環境から守られて生きてきた。
お金の心配もなく、食べ物の心配もなく、そんなに贅沢な暮らしではなかったけど、安心して生きてこれた。
確かにそれだけで幸せだった。
お金や食べ物に興味がなかったのも、その生活が生み出したものだろう。
ただ、時間は過ぎて行く。
守ってくれた彼らは、ひとり、またひとりと居なくなっていく。
なぜ、私はこんなことをしているのだろうか?
今の私は他人から見れば、確かにエリートかもしれない。
そう、外資系企業に勤め、医薬品開発に携わっている研究員だ。
だが、本当に私はこんな生き方を望んだだろうか?
その疑念が、守ってくれた彼らひとりを看取ったことで、炎上した。
私には生きる目的があった。
果たして、このまま人の言う通りに生きることで、それは達成できるのだろうか?
いや、できない。間違いなく。
箱に閉じ込められているのだろうか?
それとも、箱があると勘違いしているのだろうか?
私はいつの間にか、あれだけ嫌だった”決められた”レールに載っていた。
「何もせずに生きているくらいなら死んだほうがマシ」
私自身から見ても極端な思考だと思う。
ただ、自身の人生を見る限り、それは脈々と続いている。
それが尽きることはないだろう。
しかし、それに勝つほどの気持ちがある。
「怖い」だ。
誰かを喪うこと、何かを失うこと、壊すこと。
そして、時間を失うことにも。
なぜなら、いつも死が目の前に実感として居るからだ。
常に、頭の中に居る厄介な、それでいて行動の手助けをしてくれる変な奴だ。
いつでも、なんにでも手を抜かないのは、彼に見張られているからだ。
手を抜けない、というべきか。
彼は怖い。
現代は彼らを覆い隠そうとしている。
見えないように、気付かないように、そっと。
彼はいつでもそばにいるのに。
そして、少しずつ近づいたり、遠ざかったりしている。
ただ、いつの間にかそばにいる。
あなたの生きる目的は何だろうか?
今のままで、その目的にたどり着けるだろうか?
いつものように、いつもの場所で。
私にはそれがとても怖い。